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闇の中の妖精
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<7> 松川ナミ

 「SMニューウェイブの女王」として売り出された松川ナミといえば、運送屋が配達してくる箱の中から現れるという映画設定同様、いささか唐突に私の前に登場したという雰囲気があります。役柄も最初から「奴隷」という、これまたあまりにもズバリとした斬り込み方がされており、なるほどこれはまさに「ニューウェイブ」感覚だと思わされました。
 今思うと、彼女が本格的にデビューした昭和五十七(1982)年といえば、60年代の香りを残した泥臭い70年代の感覚がドライなものに変質していったことがはっきりと表面に現れてきた時期だったと思います。したがってSM物もその感覚に即した作品が求められ、現実に今までは本屋の片隅にひっそりと置かれていた専門誌が堂々と台の上に平積みされ、またその嗜好が普段の性生活において実践されても許される雰囲気になっており、所謂プレイ派としてのSM者が市民権を得たような社会情況になりつつあったのでした。
 しかし個人的にはやはりそれは淫靡なものであって欲しい、暗い情念を秘めた楽しみであって欲しいという思いでしたので、これから紹介する一連の彼女の作品には当時いまひとつ馴染めない部分があったことは否定できません。


奴隷契約書(昭和五十七年一月・にっかつ)
監督:小沼勝
出演:松川ナミ、志麻いづみ、大高範子、小川亜佐美 他




 松川ナミの本格的デビュー作です。
 彼女はこれ以前にモデルやフロア・ショウ等で活動していたらしく、どうやらそれもSM的指向の強いものだったらしいのですが、私は実際に見ておりません。

 物語は「奴隷」として上流家庭に送り込まれた松川ナミの日々を描いたもので、その中で繰り広げられるSM的な痴態・狂態が圧倒的な見せ場となっておりますが、少しばかり湿っぽい人間関係も含まれております。ただし「SM的」といっても従来型の被虐ヒロインが……、というような展開ではなく、虐められるほう、つまり松川ナミが最初から調教してあるという設定がミソで、このあたりに好き嫌いが分かれてしまうところがあると思います。私の稚拙な筆力ではそのあたりが上手く表現できませんので、これから具体的に作品の内容をご紹介いたしますが、未見の方には申し訳無くも、そういう理由からこの作品に限りいささかネタばらし的な部分があることをご理解、ご容赦お願い致します。


 で、まず冒頭、男から浴室で身体を清められ、股間を剃毛され、さらに浣腸まで打たれた後に前貼りをされ縄をかけられて箱詰にされる松川ナミの場面からスタートしますが、この剃毛の部分が小沼監督らしくネチネチと丁寧に描写され惹き込まれます。彼女はその間、何の抵抗も見せず、ここですでに奴隷として調教済みであることがこちらに提示されます。

 その後、彼女を詰め込んだ木箱はあるお邸に配送されますが、ここは主人が高名な政治評論家、そしてその妻・志麻いづみさんは父親譲りの財団を運営しているという裕福な上流家庭に設定されております。
 で、運び込まれた木箱を開けるとそこには松川ナミが入っており、首には「奴隷契約書」がぶら下がっているという展開で、その時の男の嬉嬉とした表情とそれを読み驚愕する志麻いづみさんの対比がその後の波乱を暗示・予感させワクワクします。

 次いで縛られたまま箱から出された松川ナミが「奴隷契約書」を暗誦させられるのですが、ここは見せ場のひとつとして特筆される部分です。さらにそのまま主人に無毛の股間を確認される場面も素晴らしく、続けてソファーでオナニー的動作が強要され、肛門に火のついたロウソクを刺されたまま全裸で這いまわる姿まで見せつけられます。
 その上ついにその夜、夫婦の営みの場に松川ナミが呼ばれ、命令されるがままに志麻いづみさんの足や乳、股間を舐めまわすところまでその奴隷ぶりがエスカレートしていきます。当然志麻いづみさんは激しく抵抗するのですが、いつしか倒錯的な快感に身を委ねという展開は言わずもがなで、その時の彼女の悶えの演技は最高でした。そしてそれが次の日の朝の夫婦間の会話に繋がっていくのですが、ここまで志麻いづみさんはベットの中での痴態・狂態を見せることが恥とでも思っているかのような高慢な女性として描かれており、また松川ナミはどのような命令にもほとんど抵抗らしい抵抗を見せないというところがこれから後の物語展開のミソとなっております。
 また、この場面でも松川ナミは犬のように這いずりまわって食事をさせられたり、投げられたマリを口で咥えさせられたりするのですが、その時に志麻いづみさんと松川ナミがそれぞれに悲しそうな表情を見せるところが各々に別の意味を持っているのだという芸の細かい描写が堪りません。

 そしてこれほどまでに従順な奴隷はどのように調教されているのかという秘密もちゃんと描かれているのでご安心下さい。
 「奴隷」は基本的に「契約」であり、物語内の台詞を引用すれば「トルコの一年分が一月で稼げる」ということになっていました。したがって舞台が上流家庭であることも無理の無い設定で、物語は後半、いよいよ強烈な見せ場に入ります。

 まずペットショップで松川ナミ自身に犬用の首輪と鎖を買わせ、大量の水を飲ませて街へ連れ出します。もちろんその首輪と鎖を着用させられ、全裸で縄を掛けられているのは言うまでもありません。着いた先は銀座です。そしてこの場面は実際に歩行者天国でロケを敢行しており、隠し撮り的手法で描かれているのですが、そこで首輪と鎖、全裸に縄を掛けられ、コートを羽織らされただけの松川ナミが尿意に悶え苦しみます。その姿を実際の通行人が好奇の目で眺めているという、非常に刺激の強い場面でした。とにかく遠慮無くジロジロ彼女達を見るおばさんやエッチ興味丸出しの男達、何か言いたげなおじさん等々、本来おもらし寸前の女性の仕草が大好きな私ですが、生まれつきの気の弱さから「あぁ、こんなこと、こんな場所でやって、良いのかよぉ……?!」と思わずにはいられませんでした。

 さらに彼女が定石通り我慢出来ずに夥しい量のおしっこを漏らしてしまう場面では、股間に掛けられた縄の間から迸る水流の激しさがしっかりと描写され、大きな水溜りの中に開放感と絶望感が綯交ぜになった仕草で蹲る彼女の姿とその周りで呆れたかえった通行人の姿を俯瞰で撮影した名場面が続くのですが、個人的にはまったく勃起しないところでした。やはりこういう場面は閉鎖された空間でやって欲しい、なんだか自分の性癖が満天下に暴露されたような気がして素直にその世界に入り込めなかったのでした。
 
 しかし次の場面はなかなか良いセンを突いていました。それは全裸に目隠しをさせた松川ナミを車で連れ出し、遥か遠い場所に放置するという企みで、何処とも知れぬ森の中で木に縛られ捨てられる時の彼女の怯えは最高でした。さらに素晴らしいのが、実はこの場所はいつも生活している邸の裏庭であったというオチで、夫婦そろってその怯えを窓から眺めているという場面、さらにようやくそれに気づいて縄を解いてもらった後の松川ナミの甘えが堪らない魅力となっていました。そしてここでの志麻いづみさんの複雑な表情が次の展開に繋がっていきます。

 彼女は財団運営の仕事でアメリカの某黒人女性と会うのですが、その時彼女から鞭打たれるという妄想に陥ります。しかもその前の展開として夫からその黒人女性について「彼女の先祖も奴隷だったんだろう?!」という絶妙な暗示が掛けられているのでした。このようにこの脚本は本当に芸が細かいと関心させられる部分が多いのです。それはクライマックスの同好の志を集めてのパーティの場面へ継続され、ここでは奴隷のオークションが行われます。もちろん松川ナミも出品されるのですが、その時の彼女は全身を墨で染めた黒人姿というところが素敵です。物語はこの時点で現在の主人、つまり志麻いづみさんの夫が契約の延長を求めているのですが、それはある理由から拒否され、男は悲しみに暮れます。
 そして驚いたことに松川ナミまでもが、新しい「ご主人様」に拒否反応を見せるのです。「奴隷」に対し高額の報酬があることは物語内で前に提示されています。したがって松川ナミの従順さがいくら調教の結果であったとしても、それなりの理由も示されていたのですが、ここではそれが否定され、主従関係が愛情に変化していたという驚愕かつ当たり前のオチが披露されるのです。この時の志麻いづみさんの表情がまた意味深いのは言うまでもありません。

 結局、松川ナミは新しい契約先へ移り、志麻いづみさんは海外へ旅立ち、広い邸には男が一人残され、虚ろな気持ちで思い出に浸る日々が続きますが、そこへ突然運送屋(「白猫武蔵の宅急便」というのが笑えます)が木箱を!そして不思議な気持ちでそれを開けた男の前にはなんと海外へ行ったはずの志麻いづみさんが現れ、奴隷として甘えるというラストなのですが、この甘えの演技が出色で、堪らない余韻が醸し出されておりました。
 また一方、気になる松川ナミのその後についてもちゃんと素晴らしい場面が用意されており、それは新しい「ご主人様」である老人といっしょに早朝のグランドに散歩に行き、そこで思いっきり「奴隷犬」としての姿を見せてくれるのですが、その時の老人の嬉嬉とした表情、そして松川ナミの甘える仕草がこれまた何とも言えないある種の風情とロマンを漂わせているあたりが印象的でした。


 ということで、この作品はまぎれも無いSM物なのですが、それまで王道とされてきた被虐のヒロインが貶められ、虐められ、そしてその中から自虐的ともいえる官能の世界に覚醒するといった展開から外れ、最初から調教されている奴隷が登場し、その奴隷をいかに活き活きと嬲っていくか、そしてそれが自分と周りの者にどのような関わりを持っていくのかが主題となっている変格的な内容で、つまり元々空想的・妄想的な部分が大きいSM物がある種のSF物に近づいた部分と、所謂プレイ派の教科書ともいうべき非常に現実的な部分が表裏一体となった、賛否両論が露骨に提示される傾向が強いものであると思います。そして個人的嗜好から言えば既に述べたようにやや違和感がある作品です。

 ただし映画としての出来は素晴らしく、馴染めないと思いつつ私は劇場で四回見ており、今これを書いている時に見返している当時のメモにも書き込みがギッシリあります。具体的には特に凝った映像は無いのですが、各々の場面でこちらが見たいと思っているところがしっかりと描写され、それが小沼監督ならではのヌメヌメとした演出で味わえます。

 あと、この作品で特に注目しておきたいのが松川ナミの役名が「ナミ」になっていることで、つまりそれによって松川ナミが現実に「奴隷」をやっていてこの映画に出演してきたのではないかと、こちらに思わせてしまうところです。実際公開当時、「奴隷として契約の上で映画出演」というような宣伝も一部でなされており、さらに冒頭で述べたように彼女のそれまでのプロフィール等はこの時点では明らかにされておらず、また女優としての容姿も所謂美形では無いし、肉体的にも微乳でスリムといえば雰囲気が良いのですが、はっきり言えば貧弱であり、芝居そのものもおぼつかない部分が多く、キメの台詞が「お許し下さい、旦那様」というだけでは、とても成人映画で主演を張ることは常識的には無理と思わせてしまうあたりが、つまり「本物?」と妙にこちらを納得させてしまうのでした。そしてこのあたりの若干あざといトリックというか詐術がこの作品をインパクトの強いものにしている大きな要因であり、結果的にはかなりのヒットを記録し、続けて彼女のシリーズが公開されていくのですが、基本パターンはこの作品で出来上がっていたと思います。

 最後に「松川ナミ」といえば、私の世代では昭和四十七〜八年にかけて梶芽衣子さんが主演して大ヒットした東映映画「女囚さそり」シリーズの主人公・松島ナミを思い出さずにはいられないのですが、案外「女囚=奴隷」という連想から芸名を決めたのかもしれないと、余計なお世話を想像しています。



奴隷契約書・鞭とハイヒール(昭和五十七年五月・にっかつ)
監督:中原俊
出演:松川ナミ 他




 「奴隷ナミ」シリーズ第二弾で、舞台はやはり上流の学者一家、物語は寡男の学者とその息子夫婦が同居する家庭へ奴隷・松川ナミが来た事から始まる四角関係の顛末を描いたものでした。

 今回の松川ナミは本来の「ご主人様」が海外旅行で家を開けなければならないために一時的にこの家庭へ預けられるという設定ですが、トランクの中から現れた彼女にはちゃんと例の奴隷契約書が添えられております。

 で、この家の主人というのが一応東洋美術研究家という肩書きになっているのですが、その実態は拷問・刑罰史や纏足等の妖しげな異端の東洋美学の第一人者という設定なので、忽ちその趣向が展開され、まず亡き妻の服を着せ、小さめのハイヒールを穿かせてしまうという凝りようを見せてくれます。そして逆さ吊りにしての放尿強制、乳首責め、人間生け花と定番の見せ場が続きますが、個人的には表現描写がやや淡白な気が致します。

 一方、息子夫婦ですが、その仲は冷えきっており、その原因は夫が自分の父親と妻の関係を疑っているということ、そして夫自身の浮気がますます事態を泥沼化させているという展開で、しかし、流石は親子で趣味は共通のSM嗜好というあたりが泣かせます。
 当然「奴隷ナミ」を巡って三角関係になり、とうとうナミが変態学者からお仕置きとして砂浜に首だけ出して埋められしまいます。そしてそこに潮が満ちてきて……、というあたりが見せ場になっておりますが、この後、物語は四角関係に発展し、さらに期限が来て「奴隷ナミ」は去って行くその場面ではお約束のオチがちゃんとついております。


 ということで、この作品は明かに前作を踏襲した作りになっているのですが、残念ながらSM的味はやや薄く、その代わりにロマンポルノとして見た場合はかなりの異色の秀作という雰囲気が濃厚で、これは有明祥子さん主演の監督デビュー作「犯され志願(闇の中の妖精・第4回参照)」で当りを取った中原監督の資質の問題があるのではないかと個人的には推察しておりますが、実際、例えば冒頭の息子の浮気場面での絡みでの実在感の素晴らしさや浜辺でのキスシーン等々に何とも言えぬ良さが溢れております。それと松川ナミ自身はこの作品での撮られ方が一番美しいのではないかと私は思います。


くいこみ海女・乱れ貝(昭和五十七年七月・にっかつ)
監督:藤浦敦
出演:渡辺良子、風間舞子、松川ナミ 他


 正統派グラマー女優・渡辺良子さんのデビュー作で、所謂「海女物」です。
 作品内容と松川ナミについては、実はこの映画を後半からしか見ていないので語る資格がありません。いつでもまた見ることが、と思っていたらそれも果せず、ビデオ化も無いようで後悔しております。データは劇場のポスターから写してしたものですが、どうやら彼女はちょい役のようです。


 主演の渡辺良子さんは、抜群のプロポーションで人気があったグラビアモデルで、そこからスカウトされてのデビューでした。彼女の出演作では伊藤秀裕監督の「猟色(昭和五十八年・にっかつ)」がSM風味のあるロマンポルノで素晴らしく、縛られて吊るされる彼女の姿を見るだけでも価値があるほどで、これはビデオ化されている人気作品です。


肉奴隷・悲しき玩具(昭和五十七年十月・にっかつ)
監督:藤井克彦
出演:松川ナミ、江崎和代、伊藤京子 他




 「奴隷ナミ」シリーズの三作目ですが、タイトルから推察できますように今回はこれまでシリーズの根底になっていた「契約書」は存在しておりません。
 舞台はどこか高原のお屋敷、登場人物はそこで優雅に生活する父と車椅子の娘、その父の愛人、そしてメイドのナミ。彼女は生まれたときからそのお屋敷で育てられ、現在はメイドとして働いているという設定になっておりますが、その実態は奴隷であり、昼間は車椅子の少女の世話、夜は男と愛人のベットでの奉仕と虐げられた日々の生活で、物語はそこへ雇われコックの若い男がやって来るというところから始まります。
 車椅子の娘はナミになついており、そしてもうお分かりのようにその父親と愛人はSM趣味があるため、忽ちその若いコックは罠に落とされ、奴隷ナミ共々に虐げられ……という展開です。

 で、この作品の肝心の見せ場ですが、奴隷ナミがこぼしたスープを舐めさせられる場面、そして縛られて吊るされ無理やり水を飲まされて尿意に悶え、堪えきれずに若いコックを跨いだまま顔面に大量のおしっこを漏らしてしまう立ちション場面あたりだと思います。


 ということで、登場人物が五人しかおらず、しかもやや限られた空間で物語が進行していくために作品自体はやや小体な出来ですが、そのぶん纏りも良く、SM空間の密度もそれなりに高いものがありますし、悲劇が結局ハッピーエンドに繋がっていく結末も仄かな余韻を残します。

 登場人物ではまず愛人役の江崎和代さんがこの手の作品ではお得意の屈折さを充分に発揮した虐め役を演じておりますし、松川ナミも演技力に進歩が見られますが、特筆すべきは車椅子の娘を演じた伊藤京子さんで、ナミを巡っての大人達への嫉妬と屈折した愛情表現、またナミとのレズシーン等々、素晴らしいものがありました。
 そして、私はこの作品で彼女に魅せられ、その後多いに期待したのですが、いつのまにかフェードアウトしていきました。ところが先年、ある大物俳優夫婦の離婚問題で彼女の名前が突然スキャンダル的に浮上し、さらに驚いたのは彼女が亡くなっていたという報道でした。心からご冥福をお祈りする他は無い気持ちでした。合掌。



縄と乳房(昭和五十八年一月・にっかつ)
監督:小沼勝
美術:木村威夫
出演:松川ナミ、志麻いづみ 他


 松川ナミの四本目の主演作品で、これまでのような奴隷物ではありません。
 物語はエロショウを演じて各地の小屋を渡り歩いている男女が、SM愛好家の夫婦に出会い、共にその地獄に落ちていき……、という展開ですが、その旅芸人の女が松川ナミであり、愛好家夫婦の妻役が志麻いづみさんです。

 そしてここでの松川ナミはこれまでの作品に比べると台詞も増え、また演技もしっかりとしてきており、物語の主題である人間のどうしようもない性のようなものを精一杯演じており好感が持てました。もちろん志麻いづみさんの手堅い助演とツボを外さない色っぽい演技は言わずもがなです。

 で、肝心の見せ場ですが、ナミが大きな水車に括りつけられて水の中に頭から浸けられるあたりでしょうか。
 しかし、この作品は一応SM的部分も出てまいりますが、それよりも人間ドラマの方により比重が高い作りではなかろうかと思います。そのあたりを踏まえた小沼監督の演出もいつもながらヌメヌメとしており、また美術担当の木村威夫氏は往年の日活作品や一連の鈴木清順監督作品で辣腕を振るった名人で、ここでは低予算の中で、例えば水車のセット等に凝った作りを見せてくれました。



乳首にピアスをした女(昭和五十八年四月・にっかつ)
監督:西村昭五郎
脚本:スーザン・リー
出演:泉じゅん、松川ナミ、麻生うさぎ 他


 泉じゅんの主演作品ですが、松川ナミも重要な役を演じています。
 物語はある整形クリニックで働く看護婦・泉じゅんが謎の裕福な紳士から誘いを受け、徐々にSM嗜好に目覚め調教されていく様をサイコホラー風味も交えて描いた新感覚のSM物です。

 松川ナミは最初から奴隷として登場し、その整形クリニックで乳首ピアスを処置してもらう場面で登場します。そしてその手術の場面では彼女の乳首に孔を開けてピアスするところで流れる血まで描写されるのですが、かなりリアルで、こういう場面は個人的に苦手で見ていられませんでした。

 あと、彼女の奴隷としての犬の生活、檻の中の生活が断片的にストーリーの中で描かれていくのですが、見ている時にはやや意味不明なこの部分が最後に繋がる伏線として秀逸です。
 で、肝心の見せ場としては、強力な下剤を仕込まれたチョコレートを食べさせられた泉じゅんがドライブ中に薬が効いてきて悶え苦しむ場面がややあっさりではありますが、ゾクゾクさせてくれます。
 また薔薇を敷き詰めたベットの上でのオナニー場面が映像的に素敵ですし、飲尿、傷だらけの体への洋酒のシャワー等々、知らず知らずのうちにSM的なものに染まっていく展開が妙にサスペンスタッチでこちらに迫ってまいります。これは男の正体が不明であるというところにも要因があり、ある種の暗黙の了解で物語が進行していくので、見ている側はどこか拭いきれないものを心に残してそこに身をまかせる他はない情況になり、これは非常にうまい演出だと思います。

 そしてクライマックスでついに謎のクラブに連れ込まれた泉じゅんの前に沢山の檻とその中で蠢く奴隷達の姿が現れます。松川ナミももちろんその中にいることは言わずもがなで、その彼女が張りつけにされ、火のついた弓矢で撃たれて火達磨にされる場面は強烈な迫力があります。泣き叫び、助けを求める松川ナミ! これは本当に名場面だと思います。物語はその後、放心状態の泉じゅんが自宅に戻り、すっかり枯れてしまった夥しい数の薔薇の花の中で、ある決意をするのですが、これは物語のオチになっていきますので見てのお楽しみと致します。そしてラストではレア・グルーヴ系のサウンドに乗せた泉じゅんの映像がとても素敵で淫靡な余韻を残しますのでお勧めです。


 ということで、これはなかなかの秀作なのですが、惜しむらくは出だしの部分にいかにもロマンポルノというような医者と看護婦の絡みというサービス場面があったりしてやや緊張感を欠いているところが、個人的には残念です。
 ただ、同じくサービスカットとして巨乳を小さくしてもらう手術を依頼する場面に登場した女優さんが本当に見事な美乳を披露してくれて、涎が出そうでした。そしてそこでの医者の「本当にいいんですか、もったいないですねぇ」という台詞、全くの同感です。それにしてもこの女優さんは誰でしょう、当時の私のメモにも名前が無く、今非常に気になっております。

 あと、脚本はスーザン・リーという字幕クレジットになっていましたが、この洒落た物語は何か原作があるのでしょうか? 勉強不足で分りません。どなたかにご教授お願い致したいところです。



女囚・檻(昭和五十八年九月・にっかつ)
監督:小沼勝
出演:浅見美那、渡辺良子、室井滋、松川ナミ 他


 タイトルどおり、女刑務所を舞台にした物語です。
 当然そこでの定番ともいえる女囚の悲しみや人間関係、リンチ、拷問そしてレズ等々、見せ場は外しておりませんが、SM的な味は薄く、おいしい部分としては渡辺良子さんが演じる恐い女刑務官というところでしょうか、彼女が制服を脱ぎ、黒い下着姿になって鞭を振るう場面には吸付けられます。
 お目当ての松川ナミはちょい役で、これといった見せ場が無いのが残念でした。また若き日の室井滋が出演しておりますが、例のだらしない台詞回しがあるのですぐに分ります。話の種にどうぞ、というところです。


宇能鴻一郎の伊豆の踊り子(昭和五十九年五月・にっかつ)
監督:藤浦敦
原作:宇能鴻一郎
出演:朝吹ケイト、小田かおる、松川ナミ 他


 踊り子といってもストリッパーを主役に取上げた軽いタッチのロマンポルノです。
 松川ナミはちょい役で、ここでもこれといった見せ場はありませんでした。彼女の熱烈なファン向けの作品です。



メイン・テーマ(昭和五十九年七月・角川春樹事務所)
監督:森田芳光
助監督:金子修介
出演:薬師丸ひろ子、桃井かおり、渡辺良子、松川ナミ 他


 薬師丸ひろ子の主演作品で、今回この巻を纏めるにあたって見返していた当時のメモに松川ナミの名前を発見して、我ながら驚いているところです。
 作品自体は薬師丸ひろ子のファン以外には退屈なものだろうと思います。では何故私が当時、この作品を見ていたかというと、招待券を戴いたからに他なりませんが、いつもの惰性でメモをつけていたのに松川ナミについては何も書いておらず、記憶もありません。
 しかし半信半疑でいろいろ調べたところ間違いなく出演しているそうで、おそらくちょい役だろうと思います。無責任で申し訳ありませんが、気になる人は簡単にビデオをレンタル出来ますのでご確認下さい。

 一応この作品の注目点としては桃井かおり渡辺良子さんがジャズ歌手を演じて歌っているところ、それと助監督は「平成ガメラ・シリーズ」等でおなじみの金子修介であることでしょうか。彼はこの直後の同じ月、「OL百合族19歳」というロマンポルノ作品でにっかつから監督デビューを果すことになります。




 ということで、ここまでが私の見た松川ナミの映画出演作品の総てです。
 この他に「日活AV生撮りシリーズ・松川ナミのマル秘責め地獄」というビデオ作品がありますが、所謂ロマンに欠けたところがあるので個人的には好きになれず、ここでは取上げませんでした。ただし彼女の熱烈なファンならば一度は見る価値のある作品なので捜してみることをお勧め致しますが、現在かなりの高値がついているらしいので……。

 あと、彼女は「奴隷契約書」の大ヒットを受けて映画出演と平行して劇場等で主演を張ったショウを興行しており、映画出演が途絶えた後も同様の活動を行っていたようです。またテレビのサスペンス物にもちょい役ながら多数出演しておりますが、ここでは割愛させていただきました。

 で、彼女の代表作といえば、やはり「奴隷契約書」になろうかと思います。冒頭でも書いたように、個人的にはこの傾向のSM物には抵抗があるのですが、映画的には素晴らしい秀作であり、裏街道の大傑作だと思います。そしてこの一作で松川ナミの名前は愛好者の脳裏に深くいつまでも記憶されることになったのだろうと思います。未見の方には是非ともご覧いただきとうございます。


(2002・8・31掲載)

<8>高倉美貴 

三流館だより へ


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